電気は便利な存在ですが、利用にあたっては、常に漏電トラブルの危険性があります。
そんな漏電に種類があることを知っていますでしょうか?
近年、技術の進歩にともなって漏電の検知方法にも変化が見受けられ、あらためて漏電の意味を厳密に理解しておく必要が生じています。
今回は、感電や火災の原因になる「抵抗分漏れ電流(Ior)」と原因にならない「容量分漏れ電流(Ioc)」について解説していきます。
動画でも同じ内容を解説しています。
目次
漏電とは
まずは漏電の意味と危険性を復習しながら、抵抗分漏れ電流(Ior)の概要を解説していきます。
漏電についてもっと知りたい方はこちらの記事をご覧ください。
記事内に動画もあります。
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短絡(ショート)・地絡・漏電は危険!違いを電気屋が簡単に説明!
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漏電の意味と危険性
そもそも漏れ電流とは、本来想定されていない電路以外に流れる電流を意味します。
漏れ電流は漏えい電流(漏洩電流)とも呼ばれています。
通常、電路は絶縁されていますが、損傷や経年劣化によって配線や機器の絶縁性能が下がってきます。
それにともなって、漏えい電流が絶縁体の内部や表面を通して、線間や大地間などに流出します。
通信機器におけるノイズを引き起こす原因となるほか、最悪のケースでは人体に感電を引き起こす原因にもなりえます。
電気設備を管理する保安業務において漏電対策は不可欠です。
漏れ電流の種類
漏れ電流(Io)には2つの種類があります。
静電容量分漏れ電流(Ioc)と抵抗分漏れ電流(Ior)です。
一般的に漏電は、漏電遮断器や漏電火災警報器、漏電リレーなどで検出しますが、厳密にいうと静電容量分漏れ電流(Ioc)と抵抗分漏れ電流(Ior)の合成成分を検知しています。
本記事では静電容量分漏れ電流を以下、容量分漏れ電流と記載していきます。
静電容量分漏れ電流(Ioc)
I0cやIocと記載されていますが、アイ・ゼロ・シーと呼ばれています。
静電容量分漏れ電流は、対地静電容量を通して常に流れている漏れ電流です。
静電容量分(コンデンサ成分)では感電や火災の原因にはなりません。
感電や火災の原因にならないので気にしなくても良いと思うかもしれませんが、そんなことはありません。
容量分漏れ電流が多いと、高調波が多いという事になり、機器の誤動作を起こす原因にもなります。
高調波とは
・商用電源50Hzまたは60Hzの基本波に同期し、整数倍の周波数成分を持つ波形のことを言います。
・基本波に高調波が乗っかると波形が歪み、機器が誤動作するなど、悪影響を及ぼします。
抵抗分漏れ電流(Ior)
アイ・ゼロ・アールと呼ばれています。
IorやI0rと記載されています。
抵抗分漏れ電流は機器や配線の劣化により流れる漏れ電流です。
抵抗分漏れ電流は感電や火災の原因となります。
このことから点検で重視すべき漏れ電流は、抵抗分漏れ電流だということがわかります。
漏電検知の課題
近年は、インバータや各種フィルターの設置によって、容量分漏れ電流が増加する傾向があります。
そのため、電路の絶縁性能に関係なく漏れ電流値が大きくなってしまいます。
たとえば、絶縁抵抗計による絶縁性能がよくても、なぜか漏れ電流の測定値が管理値をオーバーしてしまう事例が挙げられます。
漏電火災警報器が何回も作動し、絶縁抵抗を測定するが、絶縁抵抗は良好。
結果的に設備の制御盤内にあるフィルターでした。
今までの漏電検出器では正確に漏電を検知できないという課題が見受けられるようになりました。
抵抗分漏れ電流(Ior)を測定できる計器や装置
感電や火災の原因となる抵抗分漏れ電流(Ior)を測定できなければ、電気保安としては致命的です。
しかし、最近では抵抗分漏れ電流を測定できるクランプメーターや絶縁監視装置、Ior漏電警報付配線用遮断器があります。
Iorが測定できるクランプメーターでは、通常の漏れ電流をはじめ、取り込んだ電圧と電流をベクトル演算して、容量分漏れ電流を分離した抵抗分漏れ電流のみを測定可能です。
測定値の意味を理解して点検作業を実施!
今回は漏電の意味を復習し、抵抗分漏れ電流(Ior)の概要を解説しました。
電気設備の保守管理業務ではさまざまな機器を用いて点検を行います。
点検作業は手順や点検用紙が決まっているため、理解せずに何も考えなくても測定値を記録することは可能です。
しかし、実際に測定している値について理解していなければ、点検時に電気トラブルの予兆に気づくことができません。
そのような作業員は、上司や他の方から信頼して点検をまかせづらい存在といえるでしょう。
今回解説したクランプメーターをはじめ、電気関連の測定機器を取り扱うときは、自分が測定している値の意味を考える習慣をつけることをおすすめします。