こんな方におすすめ
- トラブル対応に悩んでいる方
- サーマルトリップの対応方法を知りたい方
- モーターの故障診断について知りたい方
今回は電磁開閉器のサーマルがトリップしたときの要因、トラブル対応方法について、紹介していきたいと思います。
人によって様々な対応方法があるかと思いますので、1つの対応方法として参考になれば幸いです。
目次
サーマルリレーとは
皆さん、ご存知かと思いますが、サーマルリレーについて簡単に説明させていただきます。
サーマルリレーはモーターの過負荷、軸の固着(ロック)などにより過電流(過負荷電流)が流れ続けた時、モーターが焼損するのを保護する役割があります。
上の画像はサーマルリレーを分解した構造が分かる図です。
しくみとして、過電流が流れるとサーマルリレー内のヒーターが熱を発し、バイメタルが湾曲することによって接点が動作します。
その接点を利用して、電磁開閉器(電磁接触器)のコイルをOFFにして回路を遮断させます。
サーマルリレーがトリップする要因
要因としては、大きく分けて2つ、電気的要因と機械的要因があります。
電気的要因として、「電磁開閉器の接点不良」、「ケーブルの断線、電源の欠相など」、「端子のゆるみによる接触抵抗が大きくなる」などがあります。
機械的要因として、「異物が挟まっている」、「モーターの軸が固着(ロック、焼き付け)している。」、「水中ポンプであれば、バルブが閉まっていたり、全開であったりと通常の状態と異なる」など、があります。
例えば、機械的要因のモーター軸が固着(ロック)している場合は、軸受けから異音がしますので、日常点検で不具合に気が付くことができます。
あとは電気的要因に含まれるかもしれませんが、設計や調整ミスとして「サーマルリレーの容量選定ミス」、「設定値ミス」があります。
私の経験上、誰が設定したか分かりませんが、過去に調整つまみが定格電流より低く設定されていたことがあります。
また、その反対に定格電流より大きく設定されていることもありました。
電磁接触器やサーマルリレーの概要について知りたい方はこちらの記事をご覧ください。
トラブル対応方法
前置きが長くなりましたが、手順として、大きく分けると以下の順で私は対応しています。
対応方法
1.盤内状態確認
2.要因調査(機械的)
3.要因調査(電気的)
4.復旧、動作確認
機械的要因から調査するか、電気的要因を調査するかは人それぞれです。
今回の記事では、"機械的要因"の調査をしたあとに"電気的要因"の調査を行います。
前提条件
前提条件として、今回は三相200Vモーターとします。
1.盤内確認
まず、「モーターが急に動かなくなった」など、現場にいる方から連絡があると思いますので、現地へ行きます。
現地へ行くと、設備の制御盤に設置されているランプで異常ランプが点灯・点滅していたり、タッチパネルの警報表示画面にサーマルトリップという表示がされていると思います。
それを確認した後に、盤内にある電磁開閉器のサーマルリレーがトリップしていることを確認します。
サーマルリレーがトリップしたということですので、設定値以上の過電流が流れたということです。
サーマルリレーは多少の漏れ電流では動作しません。
このときに可能性は低いですが、ブレーカーがOFFになっていないか併せて確認しておきます。
電気的要因に関する調査はあとで行いますので、私はこの程度にしています。
図面と現物を確認して、モーター主回路などを確認し、電源をOFFにします。
2.要因調査(機械的)
モーター関連の回路電源をOFFにし、テスターで電圧(2次側)を確認して後、機械的な問題の確認として、モーターを手で回します。
接続されている負荷によりますが、ベルトやチェーンを外せる場合は取り外して、モーター単体で状態を確認することもあります。
ベルトやチェーンが取り付けられている状態であったり、ギアヘッドやブレーキ付のモーターだったりした場合は負荷が大きいため、確認しにくいです。
このあたりの判断はケースバイケースです。
モーターを単体にできましたら、軸を手で左右に回して固着が無いか、異音がしないか、動きがスムーズではないか、など確認します。
また、虫やほこり、油などの汚れの付着が原因の場合もあるため、その場合はごみの取り除きます。
これらの症状があった場合は機械的な故障と判断できます。
モーターを分解して、軸受け(ベアリング)を交換、清掃の実施、状態によっては新品と入れ替えるなど、対処します。
3.要因調査(電気的)
手でモーターの軸を回して、軽い場合は機械的要因でなく、電気的な不具合を疑い、調査していきます。
一次側電圧測定
まずはテスターを用いて、OFFにしているブレーカーの1次側の電源電圧を測定していきます。
一次側の電圧が正常ではない場合はその上流側を調査します。
配線の導通確認
電圧がOFFの状態でテスターを用いて各配線の導通を確認します。
間違って活線部分を測定しないように気をつけます。
導通測定する前に安全のため、電圧がきていないことを確認します。
端子台の緩み、外観確認
あとは、ブレーカや電磁開閉器などの端子台が緩んでいないか、焦げている部分はないか確認していきます。
過去に電磁接触器の端子に2本止まっていましたが、しっかり締まっておらず、ネジが緩んで端子が黒く焦げていることがありました。
改造やメンテナス後などの手を加えた直後にサーマルトリップがした時はその変化点を疑います。
電磁開閉器の確認
機械的要因を調べるときに電源をOFFにしていますが、電圧を確認してkらモーターの配線U・V・Wを電磁開閉器または端子台から外します。
モーターの配線を外したら、電源を投入し、コイルに電圧を印加して電磁開閉器をONさせてみます。
このときテスターを交流電圧レンジにして電磁開閉器の1次側と2次側を測定します。
U-V間、U-W間、V-W間の電圧を測定します。
200Vの場合は、正常です。
各電圧のバランスが異なる場合は、電磁開閉器の不良を疑います。
モーター確認
ここまで確認して問題なければ、モーターを確認していきます。
方法として、テスターと絶縁抵抗計を用いて、モーターの巻線(コイル)の抵抗値や絶縁抵抗を測定していきます。
過負荷でモーターが焼損し、絶縁不良によって漏電、短絡している場合があるかもしれません。
モーター確認1:テスターで確認
まずはテスターで巻線(コイル間)の抵抗を確認していきます。
今回は三相200Vモーターの場合で説明していきます。
U・V・Wの端子または配線があると思いますので、U-V間、V-W間、U-W間の各相間の導通(抵抗)をそれぞれ確認します。
判断基準
ゼロΩ:短絡
“OL”(over road):断線
3相ともほぼ同じ抵抗値:モーターコイルは正常
抵抗値がゼロΩであれば短絡、“OL”(over road)は断線、各相間3つともほぼ同じ抵抗値であればモーターコイルは正常という判断になります。
しかし注意点として、モーターコイルの抵抗値が正常でもモーター軸受けベアリングなどの固さで過電流となり、サーマルリレーがトリップします。
また、各相間(コイル、巻線)の抵抗値は「数Ω~数十Ω」です。
モーターの出力などによってコイルの抵抗値は異なりますが、抵抗値は低いので、短絡との判断が難しい場合があります。
各抵抗値バランスが異なる場合は、モーターコイル不良を疑います。
あとは、テスターでコイル-アース間を測定される人がいるかもしれません。
テスターで測定しても完全に地絡している状態でないと、テスターで判断することができませんので、参考程度に調べるのは良いと思います。
モーター確認2:絶縁抵抗計で確認
絶縁抵抗計を用いて、各相とアース間の絶縁抵抗を測定します。
モーター内部でつながっているので1相だけ測定すれば良いという方がいらっしゃいますが、断線している場合は他の相の絶縁抵抗を測定できていないことになります。
ですので、3相とも順に測定していきます。
印加する電圧について、私は基本的に三相200Vの場合は250Vを印加、新品時は500V印加するときもあります。
電圧に関しては民間規定である「内線規程」の1345節、電路の絶縁」に「低圧電路の絶縁抵抗を測定する絶縁抵抗計は、電路の使用電圧相当の定格測定電圧以上のものを使用することが望ましい。」と記載されています。
測定した結果についてですが、基本的、良好な場合には3つとも同じ値になります。
基準についてですが、絶縁抵抗値は低圧電路の漏れ電流を1 mA以下にすることを基本として、電気設備技術基準 省令3章第58条「低圧の電路の絶縁性能」に示されています。
電気設備技術基準 第3章電気使用場所の施設
第1節 感電 火災等の防止
第58条 「低圧の電路の絶縁性能」
電路の使用電圧区分 絶縁抵抗値 300V以下 対地電圧(接地式電路においては電線と大地との間の電圧、非接地式電路においては電線間の電圧をいう。以下同じ)が150V以下の場合 0.1MΩ その他の場合 0.2MΩ 300Vを超えるもの 0.4MΩ 出典:電気設備技術基準
これは内線規程にもかかれています。
三相200Vの場合、対地電圧150Vを超え使用電圧300V以下のものになりますので、0.2MΩ以上であればOKですが、0.2MΩでは絶縁状態は良好とはいません。
感覚になりますが、1MΩを下回ると、すぐに絶縁が悪くなる印象があります。
ですので1MΩ以上はあってほしいところです。
再運転
もし、ここまで調べて問題ない場合は、一度サーマルリレーをリセットして、再度運転します。
復帰させるには機種によって異なりますが、小さなボタンがありますのでそれを押してください。
当然ですが、負荷の状態がトリップしたときと変わらなければまたトリップします。
このときにクランプメータで電流値を測定して電流値に異常がないか、テスターで電圧に異常がないか確認します。
4.復旧、動作確認
要因を取り除いたあとは、試運転して、電流や電圧の値に問題ないか、異音はしないかなど状態を確認します。
これでトラブル対応は終了となります。
まとめ:トラブル対応で気をつける事
今回はサーマルリレーがトリップしたときの対応を紹介しました。
先程も申し上げましたが、よくある要因が軸受け不良による、モーターの固着(ロック)です。
しかし、注意点として過去のトラブルとらわれず、先入観を持たずに冷静に要因を調査することが大切です。
私自身、つい先入観を持ってしまい、トラブル対応にハマってしまうことがあります。
思い込みはトラブル要因を特定するのに遠回りになってしまいますので、気をつけたいところですね。